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実録台北公安事情 Part 1 [旅]

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台北のタクシー料金は安い。しかし私は時間的に余裕があることを理由に、異邦人にとってありがたいその権利を放棄してしまった。それが異国での悪夢につながったのである。
数年前のこと。私はホテルから徒歩で台湾の鉄道の要、台北駅前近くにある訪問先を目指した。台北は不思議な街である。洒落たファッションビルがあるかと思えば、その横の路地を少し入ると、道端に無造作に置かれた木製の椅子に体格のいいオヤジさんがランニングに単パン姿で何をするでもなくすわっている。路地を抜けて別の通りにでると日本の地方都市にあるような商店街に出くわす。小さなレコード店、陶器店、店先に毛をむしられた豚がぶらさがる肉屋など、私の歩く速度はどうしたって遅くなる。約束の時間に遅れないよう、自分の方向感覚と時折建物の間から見える訪問先近くある高層ビルを頼りに歩いた。やがて黄色いタクシーや、カラーリングに統一性がないように思われるバスが激しく行き交う駅前のバスターミナルに到着。そこを横切ることは訪問先への最短ルートと判断し、ターミナル内に入った。その中は排気ガスで空気は澱み、さらに埃っぽく風も通らず蒸し暑い。台湾各地への中距離バスの発着だったのだろう。年代ものの英国製総皮革アタッシュケースを片手に歩く私は、大きなバッグや荷物をもち、バスの到着を待つ列に並ぶ人たちの奇妙な視線を感じずにはいられなかった。ターミナルを抜け再び外気に触れられると思った瞬間、私の行く手に帽子をかぶった二人の制服姿の男が立ちはだかったのである。学生ではない。郵便屋さんでもない。もちろん野球選手でもない。医者でも銀行員でもないこともすぐにわかった。(もしかすると警官)私は思った。私に何か言っているのだが私はわからない。「 I can’t speak Chinese」というと、相手の二人は顔を見合せ何かいいあった後、私のアタッシュケースを指差し何かいった。英語のようでもあり日本語のようでもある。英語だとしたら発音が悪い。私よりもひどいかもしれない。どうやら「それを開けろ、オープン」といっているようだった。私はしゃがみこみ、膝の上でケースを開けることにした。開けた瞬間『ドッカーン』といって驚かしてやろうかとも思ったが、彼らの真剣な表情からして冗談が通じなかった時のことを考え無言で開けた。ケースを開け彼らの方に向けてみせると、またしても二人で何やら話した後に、「パスポルト」と言った。パスポートを見せろということだろう。こちらも察しはつくが、少なくとも海外からのゲストに向かっていうなら「パスポートを見せてください」程度の柔らかい表現はできないのかと腹がたってきた。
私はパスポートケースからパスポートを抜き、差し出した。と、その瞬間! つづく

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パリの高級時計店にて 脱出編 [旅]

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売り子さんは最初英語で話しかけてきたが、睦美嬢が英語で応えることなく流暢なフランス語で対応したので、その後の交渉はフランス語で進んだ。マネージャーは売り子さんの少し後方に立ち、彼女の接客の様子をチェックしているようだ。彼女のボーナスの査定に影響があるのだろうか。それとも私たちがブレゲの時計を販売するに相応しい人物かを鑑定しているのかもしれない。睦美嬢が売り子さんに私の探している品名を告げる。睦美嬢の左手はエルメスの存在を知らしめるかのようにいまだに不自然に顎の下あたりにあった。私は社長からプリントアウトされた商品リストを渡され「この時計の価格を」と依頼されていたので、その時計の品番、シリーズ名を暗記するとともに、その時計のデザイン、面構えまでしっかりと脳裏に叩き込んで日本を発っており、品番も睦美嬢に伝えておいたのだ。売り子さんは私たちのすぐ左手、入口に一番近い小さなショーウインドウの前に進み、中の品物が希望の商品であるといった。私の上着のポケットには折りたたまれたその商品リストがあるが、この場でそれを引っ張りだして照らし合わせるわけにもいかない。しかしショーウインドウの中では間違いなく社長の望みの代物が時を刻んでいた。価格は表示されていなかったが。『これだこれだ』という顔を私がすると売り子さんは、これで一丁あがりと思ったのだろうか時計の大きさはどのぐらいがいいのかと質問を投げかけてきたのである。私は掛け時計を探しているのではなく、この腕時計が欲しいのだ。何をとぼけたことをいっているのかと思ったが、睦美嬢の通訳によれば、時計の文字盤には使用する人の手の大きさに合うようにいくつかのサイズが用意されているようなのだ。さすが高級品は肌理が細かい。睦美嬢はさらに私たちに日本語で一言つぶやいた「彼女フランス人じゃないね」。独特の訛りがでてしまったようだ。
売り子さんは私の手のサイズを知りたかったのか、東洋人の手にただ触れたかったか、私に手を差し出すようなそぶりをみせた。しかし時計を使用するのは私ではない。私は頼まれて調査にきただけ。日本のディスカウントショップとの間に大きな価格差があれば購入すべしとの指令をうけたにすぎないのだ。しかしこの段階でも店側は、商品をショーウインドウから取り出すそぶりがまったくない。飾り窓のようにウインドウ越しに品物を見て選べということか。価格をたずねるとマネージャーがようやく表舞台に登場し、私たちを奥の別室へ誘導するように売り子さんに告げた。睦美嬢の顔色が変化する。そして日本語で囁いた「奥に通されると購入しなくてはならない状況になる危険性があるよ」。長居は無用、謎の東洋人ご一行は速やかに退店することにしたのである。

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パリの高級時計店にて 潜入編 [旅]

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銀婚式記念というプライベートな旅行であったが、私は勤務先の社長から理不尽にもパリでの重要任務を命じられていた。高級時計店ブレゲへの潜入調査である。社長が激務の最中に日本のインターネット激安ショップで見つけたブレゲの価格と、現地価格との間にどの程度の差があるかを調べなければならなかったのだ。
ブレゲのショップは超高級ブランドショップしか見当たらないヴァンドーム広場に面している。入口には体格の良い黒服のガードマン兼ドアマンが立ち観光客が気安く入れる雰囲気ではまったくない。最初からブレゲだけが目当ての顧客、もしくは少なくとも他ブランドと比較して購入を検討している人だけが重い扉を開いて入店を許される状況といえる。私たち夫婦だけならショーウインドウを覗くことしかできなかったであろう。しかし今日は奧さんの友人でパリ在住の独身貴婦人、市内にアパルトメントを保有する元外資系証券会社勤務の睦美嬢が一緒なので入店可能なのだ。なぜなら彼女の左手首には数年前に購入したエルメスの高級腕時計が燦然と輝いているのだから。その価格は現在の彼女のパリでの1年間の生活費に匹敵するという。バブリーだった外資系証券会社OL時代、後輩のお供でハワイのエルメスショップに立ち寄った際、衝動買いした代物だそうだ。彼女いわく「今なら絶対手をださない、だせない。後輩がいる手前買わざろうえなかった」といういわくつきの逸品である。これさえ身につけていれば、冷やかしで入店してきた日本人観光客とは思われないであろうというのが彼女の推測だった。
彼女は不自然に左手首を露呈し、エルメスの印籠を見せつけつつ「早くドアを開けなさい」とドアマンを威嚇した。小さな彼女がヴァンドーム広場の一角でマグマ大使のように大きく見えた。ドアマンはニコリともせずドアを開けた。彼女に続いて私たちも店内に入る。奥行きはありそうだがとにかく中は薄暗い、店内の左手に小さなショーウインドウが奥までいくつかあるが、商品を照らしだすそのショーウインドウ内の照明だけでショップ内の明るさを確保しているようにも思えた。私たちが入店するとすぐさま若いパリジェンヌらしき売り子さん(この表現はマッチしないかもしれないが)がマネージャーらしき男性とともに私たちのもとにやってきた。私たちの背後にはなぜかさきほどのドアマンが立っている。彼もまた私たちとともに入店してきたのだ。東洋からきた不審者たちを監視しているのかもしれない。つづく

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たかが朝食されど朝食 [旅]

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プライベートな旅行であってもお仕事優先の出張であっても、宿泊先が旅館であれホテルであれ、現地での朝食は私にとって楽しみのひとつです。
いちいち唸ってしまうような柄や形の器、それぞれの器に配された家庭では製作不可能であろう季節を感じさせる美しい彩りのお料理の数々。朝からこんなに食べられないと思っていたのにそれらをきれいさっぱり胃袋に収めた後の爽快感。食洗機は使用できないような器もあるので料理長の下で働く人たちはこれからがまさに戦場(洗浄)に違いない、ご苦労様と思うのは一瞬です。ホテルのバッフェなら最後に食するフルーツやデザート類の品揃えをまずチェックした後、スクランブルか目玉焼きか、ベーコンかソーセージか或いは両者かと、贅沢な選択プラス綿密に量を判断しつつ手にしたお皿に盛っていく楽しみ。摩天楼に占拠された四角く小さな空を見上げながら、鏡を置いたかのごとく静かに拡がる湖面を眺めながらなど、気ままな姿で食べられるルームサービスによるブレックファーストも幸せを感じさせる時間です。楽しみな朝食ですが苦い経験もあります。イギリスの静かな村の部屋数も僅かなホテルでのこと。私はその日の昼過ぎまでに不慣れなマニュアル車を運転してロンドン空港まで戻り次の目的地を目指さなければなりませんでした。ルームサービスでちゃちゃっと済ませたいところでしたが小さなホテルだけにそれは不可能。ホテル内のレストランに行くと飲み物から卵料理、デザートにいたるまで何種類かが記されたコースメニューが置かれているではありませんか。さらに最初にすべてを尋ねればいいのに儀式を重んじる大英帝国のなごりでしょうか、おめかししたギャルソンが頃合いを見計らって都度テーブルにわざわざオーダーをききにくるのでした。こちらはデザートまですべて一緒盛りでもよかったのですが時間差で別々にゆっくりと供されます。次の目的地に向かう飛行機は私の搭乗便以降はすべて満席とわかっていたので、スーツケースに座り込み、空港の片隅で途方にくれる私の姿が脳裏に浮かびました。それでも美味しさは時の経過を忘却の彼方に追いやり副菜もデザートもひとかけらも残さずきれいに平らげましたが。
幼い頃、親戚の家にお泊りした翌朝のごはんも美味しかった記憶があります。何が美味しいというのでなく同じ生卵でも漠然と美味しかった気がするのです。多分、我が家とは違った器で供され、我が家とは違う風景の中にいたからではないでしょうか。視覚によるトリック、錯覚といえるかもしれません。スキー場で素敵に見えた異性に都会で再会してみると「あれれっ?」と思わせるゲレンデマジックと同じなのかも。でも旅館やホテルの朝食は決してマジックではないはずです。

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