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サンタ三様 [小説]

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「あー、つまんないな今日がなんでクリスマスイブなんだろ、早寝しなくちゃ」
「なんで、今夜はよっちゃんがみたいって言ってた令和の初めにヒットした『鬼滅の刃』とかっていう映画をやるらしいよ」
「知ってる、でもねイブはサンタクロースがプレゼントを届けにくるから早寝してないと義偉だけパスされちゃうぞって父さんがいうから。父さんまだぼくがサンタクロースの存在信じてると思ってるんだ」
「嘘でしょ! ロマンチストだね、よっちゃんの父さん」
「そんなんじゃない現実を知らないだけ。しんちゃんとこは今夜大忙しなんでしょ」
「うん、パパ張り切ってるよ、なんてたってクリスマスイブだから」
「お客さんの家の子供たち大勢呼んでパーティしてプレゼント贈るんだよね」
「うん、年に一度堂々と洋服を着れる日だからパパうれしいみたい。洋服っていったってサンタの衣装だけどね」
「しんちゃんのお父さん長髪でひげも生えてるから絶対サンタの格好の方が普段の衣装より似合うと思うよ」
「パパのサンタを檀家さんの子供たちも楽しみにしてるみたいだし、うちの寺では最大のイベントだから、パパ10月頃からうきうきしてるもん。将来は晋三がサンタをやるんだぞってプレッシャーかけられてるけどね」
「ドナルド君の家は本場だからいっぱいいっぱいプレゼントもらえるんでしょ」
「よっちゃんやしんちゃんがうらやましいよ。僕は生まれてからいままで一度もクリスマスプレゼントなんかもらったことない」
「なんで?」
「宗教的なこと?」
「違うよ、親父はいまだにサンタがいると思ってるから」
「?」
「?」
「親がサンタクロースだってことに気付かず、教えられずに大人になっちゃったみたい。だから毎年クリスマス明けには怒られるんだ。ドナルドが悪い子だからサンタがプレゼントを届けてくれないんだ、お前はトランプ家の恥だ、もっといい子になりなさいってね。家に帰りたくない、憂鬱だな」

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共通テーマ:日記・雑感

クラッシュ=異常終了 [小説]

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決して軽んじているわけではないが関西弁は便利だ。標準語に比べれば柔らかな語調の関西弁という声色(こわいろ)を用いれば、いかなる場合も相手にそれほど不快感を与えることなく、比較的穏やかにことが運ぶことができる、と思っていたのだが。
人々が行き交う雑踏の中を歩きながら、地下鉄のホームで友人と爆笑しながら、信号待ちのスクランブル交差点でその色の変化を注視することなく、スマホを耳にあてる、また画面を操作するアホ娘が目に付く今日この頃である。そんな世の中で、文明の利器を所有しない清楚で可愛らしい女性に遭遇した。
3番線に到着した久里浜行きの電車を降り、私は表駅に出るべく連絡階段を渡り、1番線ホームにでた。1月にしては寒さを感じさせない風がホームを吹き抜ける。グリーン車が停車する当たりのベンチで茶髪のアホギャルが、醜い腿をさらけだしながら大声でスマホの向こう側にいるであろう馬鹿男に話し掛けていた。そして売店横の喫煙スペースにも黒いロングコートに身を包みくわえ煙草でスマホをいじるOLとおぼしき輩を発見。どいつもこいつも何やってんだ。一人苛立つ私の視野に飛び込んできた一人の女性。
彼女は売店横にある昭和遺産、公衆電話の前に立ち、その美しく、か弱い手で大きな黄緑色の受話器を手に電話の向こうの相手に語りかけている。私は言いようのない感動をおぼえた。携帯・スマホの氾濫するこの世の中にあって、時流に巻き込まれることなくそれを持たず公衆電話を利用するなんて、きっと良家の子女に違いない。無事駅に到着したことを家族にあるいは執事に伝えているのだろう。私の想像は限りなく膨らんでいく。そして、 私は彼女が受話器を置くのを待つことにした。
美しく輝く肩までのびた亜麻色の髪が時折風になびく。静かに受話器を耳もとから離す彼女を確認し、私は大胆にも彼女に接近した。一瞬、戸惑いを見せ瞳を大きく見開く彼女。その済んだ瞳に吸い込まれる前に、私は彼女に思い切って語りかけた。
「スマホこうてやるけ、おっちゃんとマクドいかへんか」
1番線ホームに進入してきた上り電車の騒音が、彼女が私に放った平手打ちの乾いた音をかき消した。

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宣告 [小説]

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「この部分に影があります。処置のしようがありません」主治医の診察室で宣告された父の病状だった。父は自分の犯された病が何であったのかを知ることなしに逝った。私はまだ大学生、インフォームド・コンセント(説明と同意=医療を医師と患者の共同作業と捉え、医師が患者に病名、治療法等を説明し、患者の同意を得ること)などという言葉が世の中に認知されていなかった半世紀近く前のことである。
木枯らしの吹く雑踏の中にいると頭に異様な痛みを感じる。激しいというわけではないし、鈍痛とも違う。何か染みるような痛みであった。私はこの症状が尋常ではないと自ら直感し主治医を訪れた。案の上、主治医は総合病院でのCTスキャナによる頭部断面レントゲン撮影を薦める。それを診て主治医は診断したいというのである。この場で紹介状を書くから明日にでも訪問するようにとの医師の言葉から私には自分の病気の重大さが想像できた。総合病院はいるだけで健康な人間を病人であるかのように錯覚させるに充分な雰囲気を持ち合わせている。まして重病人である可能性の極めて高い私は精神的にも病に犯される前に 一刻も早くこの場を立ち去りたいと願った。私は病院から逃げ去るように現像仕立てのレントゲン写真を抱えタクシーに乗りこんだ。この写真を診て主治医はどのような判断を下すのか。いつまでもこのままタクシーに乗っていたい。主治医のもとに到着しなければいいのに。私は複雑な思いを巡らせながら車中での時を過ごした。主治医は封筒から3枚のレントゲン写真を取りだし1枚ずつシャウカステンにとめる。最後の1枚がうまくとまらずひらりと宙に舞い床に落ちた。私は何か不吉な予感を感じたが、医師は平然とそれを拾い上げ再びクリップでとめた。主治医がスイッチを入れると背面の蛍光灯が点灯し私の頭部の断面写真鮮明に浮かび上がる。医師はじっと見つめ検証しているように思えた。重苦しい沈黙が診察室を覆う。私の脳裏に20数年前の光景がフラッシュバックし現在の光景と重なった。静寂は2~3分続いたであろうか。私に背を向けるように写真を見つめていた医師が回転椅子を半回転させ私を直視した。医師の表情の硬さから、私はただ事ではないことを察知した。患者にも辛いが医師にとっても辛い告知の時を迎えたようである。しばしの沈黙の後、医師は口を開いた。「この写真では、はっきりと確認できないのですが……」そう言うと医師は再び椅子を回転させ掲示された3枚のうちの1枚の写真の一部を指さし言葉を続けた。「この部分に……」私は目を閉じた。いったい余命はどのぐらいなのだろう。その間に何をすべきか頭の中で様様な情報が交錯した。早くいってくれ、いや、今日はききたくない。強い自分と弱い自分が闘っている。「この部分に……禿げがありますね」「?」「痛みの原因はこの禿げでしょきっと」「やっぱりあった。抜けてるね随分。周囲の毛髪が隠してたんで自分じゃ意識がなかったんだね。私では処置のしようがありません。このままだとあと1年でつるっぱげだよ。早めにハゲザンスに相談したらどう?」病院をでると頭が痛い。冷たい北風が頭部に容赦なく吹きつけていた。少しでも阻止せんと頭頂部に手をあてると痛みがおさまる。毛根の衰退から細くなってしまった毛髪が数本、弱々しく風に吹かれ飛んでいった。医師の宣告が正しいことを私は認めざるをえなった。

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面倒くさい関係 [小説]

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「21時21分発のぞみ473号新大阪行き間もなく発車となります」人影もまばらなホームに流れるアナウンス。「昭恵、さっきも全然食べてなかったじゃないか。ちゃんと食事しなきゃダメだよ」「だって晋三とまた5日間会えなくなるのよ、食べられるわけないじゃない」デッキに立つ晋三とホームに立つ昭恵は握り合った手を離さない。「ドアが閉まります」ひと時でも長く一緒にいたい二人を無情にも裂くアナウンス。手を離したと同時にドアが二人を遮断した。昭恵の瞳から落ちた一筋の涙がホームを濡らす。相手に届かないことはわかっているが「晋三」「昭恵」それぞれ別の世界からお互いの名をつぶやく二人。のぞみは徐々にスピードをあげ東京駅のホームから姿を消した。零れ落ちる涙をぬぐうことなく手を振り続ける昭恵。数寄屋橋付近のカラフルなネオンの灯りが晋三の顔を照らす。昭恵の姿はとうに見えない。彼はため息をつきようやく席に向かう。車両の中ほど3列席の通路側9Cが晋三の席だった。父の遺品であるマジソンバッグを網棚に乗せのシートに座る。隣席9Bには誰もいない。窓側9Aに座っていた女性が晋三に声をかけた。「純愛してはりまんなあ、王子様」「令和の時代にシンデレラエクスプレスなんて死語ありえないでしょ。あーやっと週末が終わった。うれしー。ところでそっちは今夜彼とのお涙頂戴セレモニーはなかったの?」「彼、夕方札幌へ行ってしもた。ちゃんと羽田でシンデレラ演じてきたさかいご心配なくー」。その時、晋三のスマホがラインの着信を知らせた。昭恵の視界の先にある涙で歪んだ二本のレールが直線になるまでさほど時間はかからなかった。ホームのベンチに座りバレンシアガのバッグの中からiPhoneを取り出しラインを打ち始める昭恵。『会いたい、今すぐ会いたい』。「重い、重い、この思い重すぎ。これ見て。馬鹿なのほんと。勘弁してくださいよだよ」晋三はすでに9Bの席に移っており右手で9Aに座る女の左手を握っている。そして列車が品川駅を出るころには彼女にしなだれかかりながら深い眠りについていた。晋三へラインを送った昭恵は足早にコンコースに通じる階段を下りる。日曜の夜なのですれ違う人もいない。昭恵のiPhoneが振動しラインの着信を告げる。「嘘っ!」不満気な呟きとともに画面をみる昭恵の頬が膨らんだ。100年前の姿を取り戻した東京駅丸の内駅舎の前に佇んでいても違和感のないモンスターマシンBMW-M6。その助手席側のドアが開き女が乗り込む。「太郎君、何で急に変更すんのよ。八重洲口のが近いのに。歩き疲れた私ー。」「ライトアップされた東京駅を見てもらおうかと思ってね」「興味ないから全然。ところで今夜はシンデレラ気取りの百合子姫はどうしたの?」「帰ったはずだよ新幹線で、今夜から札幌ってことになってるから俺」「あーお腹すいた。焼肉行こう。ハラミ、ハラミ食べたーい」「了解。昭恵さま」。ブラックサファイアカラーのM-6は乾いたエンジン音を轟かせ灯りの消えた丸の内のオフィス街にやがて同化していった。
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