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実録台北公安事情 Part2 [旅]

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私はパスポートケースからパスポートを抜き、差し出した。と、その瞬間! 
彼らが私のパスポートをもっていきなり駆け出すのではなかろうか。彼らは警官に化けた犯罪者集団の一味ではなかろうか。不安が脳裏をよぎる。そうなったら勝ち目はない。小学生の時、運動会の徒競走で、前走者がこけてしばし起き上がれないので、これで今年はビリを免れたと安堵した両親の期待を裏切り、ゴール前で見事にこけた走者に抜き去られ定位置のドンケツになったほどの鈍足の私である。相手は若いし勝ち目はない。私のパスポートは闇ルートで売買されることになるのではないだろうかとの不安にみまわれた。しかし、彼らは走りださない。パスポートの私の写真と、実物とを交互に見て比較検討している。私に目をむけたとき、にっこり微笑んでやろうかとも思ったが、それも躊躇した。次の彼らの要求は「エアルチッケト」だった。エアーチケット、つまり航空券のことだろう。私を不法滞在者とでも思ったのだろうか。事態はあまり楽観視されない状況のようである。ドッカーンも意味のない微笑も躊躇したことは正しい選択だった。バスの列に並ぶ人たちから放たれる視線は奇妙ではなく犯罪者をみるような冷たい視線に変化している。私たちは同じ肌の色をしているではないか、過去のわだかまりは消して両国発展のためにも、もっと暖かい眼差しで私をみつめて欲しいと願ったがそれは無理な要求のようだった。だが喜ぶべきはいつもならホテルの部屋の金庫に入れておくパスポートも航空券もその日に限って持参していたことである。航空券をケースの中で探しながら私は考えた。彼らの狙いは航空券だったのか。これを持って走りだし、金券ショップに持ちこもうという魂胆かもしれない。私は再び猜疑心に襲われた。おそるおそる航空券を差し出す。内容を確認している様子である。沈黙は続いた。外気を目前にしているものの私たちの立つターミナル内をとおる風はない。例によって妙な汗もでてきた。いきなり手錠でもかけられたらどうしよう。日本語のわかる警察官は署に戻ればいるのだろうか。一生台湾から出国できなくなるのでは。異国の地は人を予想外に不安にさせる。でも私は何もしていない。日本からの逃亡者ではない。テロリストでもない。善良な一社会人である。やがて私にパスポートと航空券が差し出された。無罪放免のようである。真の犯罪者に私のパスポートと航空券が奪われないように見守ってくれていたのだろうか、私がしっかりとそれらをアタッシュケースに収めるのを見届けた後、彼らは「グッバイ」とぎこちない笑みを残して埃っぽいターミナルの中へ消えていった。
列に並ぶ人たちは何事もなかったかのように新聞をひろげたり、おしゃべりをしたり、私に無関心を装っていた。時間にして5,6分のことではあるが、警官に呼びとめられるだけで人はこれほど緊張するものなのかと実感した。現地に駐在する日本人スタッフにこの話をすると「3年いるけど、そんな経験一度もないよ、よっぽど怪しかったんじゃない」と大笑いされた。しかし、彼らは制服を着てはいたが本当に警官だったのか。ただのコスプレマニア?真実はいまだわからない。

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