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丘の上のホテル [ほっこり]

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東京湾をはさんで房総半島をも望む横浜の丘の上にホテルがありました。37年前の4月、まだ客室数も僅かな二階建ての小さなホテルだった時のこと、ホテル別棟の貴賓館で私は結納の儀なるものに列席しました。もちろんその儀式の主役として。桜茶なるものを口にしたのもそのときが初めてだと記憶しています。席上、当人の両親には喫煙者であることを隠し続けていた私の婚約者に対し、私の母親は堂々と煙草をすすめました。我が家にきた際には私の母とともに堂々と煙を吐いていたので母にしてみれば日常の自然の行為だったのだと思います。その場がどういう展開になったかは定かでありませんが、婚約者はかなり慌てたと今でもそのときのことをはっきり憶えているそうです。その半年後には、そのホテルの宴会場で、一億円貯めた自慢話を中心に非常識にも30分以上にわたりスピーチした来賓にもご出席いただき、とても印象的な披露宴を執り行うことができました。
私の両親の金婚式の御祝を催したのも丘の上のそのホテルです。20年前のやはり4月、小さかったホテルもすでに高層建築の大型ホテルに生まれかわっていましたが、ホテル内レストランの一室を借りてお祝いしました。体調を崩していた母には油分をおさえた特別メニューで対応してもらったため量も少なめ。それでも作ってくれた人に申し訳ないといいつつ母は少し口に含むだけでほとんどの料理を残していましたが。その日は母の体力を考慮しホテルに宿泊。翌日、ホテル内の吹き抜けの空間を利用したチャペルでは若い二人が牧師さんを前に永遠の愛を誓っていました。車椅子に座ってその光景を見ていた母は「あなたたちも50年間がんばりなさい」とでもエールを送っていたのでしょうか。母はその後ひと月も経たないうちに他界しました。
親会社やオーナーの相次ぐ不祥事によりそのホテルはやがて閉鎖され取り壊されました。決して格式や伝統があるホテルではありませんでしたが、私の人生におけるいくつかの想いで深いシーンの舞台となったホテルが消滅してしまったことはとても残念で寂しいことです。現在ホテルのあった丘の上にはマンション郡が林立しています。今も週に何度か丘の麓の国道を車で通りますが、私には、昔のこじんまりしたホテルや貴賓館、緩やかな曲線が特徴だった高層ホテルの姿があの丘の上に浮かん見えます。

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