SSブログ

西洋憚(はばか)り見聞録 [旅]

20110125_838104.jpg
中学生の頃、友人と銀座に行ったときのことです。友人の腹がどうしようもなく疼きだしました。私たちは近くの銀行に駆け込んだのです。すごい形相で入店してきた中学生ふたりみて思わず非常ベルに手をかけた行員がいたかもしれません。彼は用をたしたかっただけなのですが、銀行には彼のお目当てだったお客様用のトイレがありませんでした。友人は銀行をでると人ごみをかきわけ四丁目付近のデパートに猛ダッシュ。ことなきをえたのでした。よっぽどの大口預金者か主要取引先でない限り、銀行側が素直にトイレの使用を許可しないであろうことは今ならわかりますが、当時の私たちにはそんな大人の事情はわかりませんでした。
銀行は冷淡でも日本にはデパートやファッションビル、地下鉄の駅にだって構内に入らなくてもトイレがあり、誰でもウェルカムで利用可能。ところが欧州はちょっと様子が異なったのです。私と奥さんは英国とフランスを旅行したときのこと。日本ではどちらかというと便秘気味の二人ですが現地ではよく食べるせいかよく歩くせいか、とにかく快調そのもの。場所時間を問わず体はそれを要求してきました。繁華街を歩いているときならデパートに行けばすみます。でもよっぽど大きな駅構内ならともかく地下鉄の駅にはトイレがありません。ちょっと商業地区を外れるとそれこそ大変。レストランやパブに入って何かオーダーしない限り用がたせないのです。しかし街を歩くうちに大発見をしました。ロンドンの美術館博物館は入場無料、そしてそこには美しいトイレがあることを。ところかわってフランスではこれまた一苦労でした。美術館は有料ですし、デパートがそこかしこにあるわけではありません。どうにもならなくなったらカフェに飛び込み、飲みたくもないコーヒーを注文してから大抵地下にあるトイレに向かわなくてはならないのでした。地方の小さな街や村だったらもう宿屋にもどるしか解決法はないのです。いったい他の西洋の国々からきた観光客はどう対処しているのだろう、私たちは不思議でならなかったのですが、結局、西洋人と日本人では体の構造が異なるに違いないという結論に達しました。
ある日の午前中、パリ市内を歩いていた奥さんの口数が減ってきました。色づきだした街路樹、セーヌのおだやかな流れを観る余裕すらありません。やがて妙な歩き方になってきました。尋ねると案の定、憚りに行きたいとのこと。午前中の早い時間だったので空いているカフェも見つかりません。ようやく金髪のパリジェンヌが屋外にテーブルをセットしている開店直後のカフェを見つけました。奥さんはエスプレッソと私に言い残して階下へ飛び下りていったのです。私はパリジェンヌに奥さんのオーダーも告げ、代金を支払い、エスプレッソを受け取り、屋外のテーブルに陣取り、車の通りもほとんどない静かな街の様子をぼんやり眺めていました。やがて奥さんがもどってきたのですが様子が変。「すぐに行こう」というのです。エスプレッソの大半をカップに残したまま、私たちはその場を立ち去りました。きくとトイレの水が流れなかったといいます。トイレがもともと壊れていたのか、ボリュームによって破壊されたのかは不明です。あれからパリの巷では日本人は体の構造が違うようなのでトイレは絶対に使用させるなと囁かれているのかもしれません。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。