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クラッシュ=異常終了 [小説]

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決して軽んじているわけではないが関西弁は便利だ。標準語に比べれば柔らかな語調の関西弁という声色(こわいろ)を用いれば、いかなる場合も相手にそれほど不快感を与えることなく、比較的穏やかにことが運ぶことができる、と思っていたのだが。
人々が行き交う雑踏の中を歩きながら、地下鉄のホームで友人と爆笑しながら、信号待ちのスクランブル交差点でその色の変化を注視することなく、スマホを耳にあてる、また画面を操作するアホ娘が目に付く今日この頃である。そんな世の中で、文明の利器を所有しない清楚で可愛らしい女性に遭遇した。
3番線に到着した久里浜行きの電車を降り、私は表駅に出るべく連絡階段を渡り、1番線ホームにでた。1月にしては寒さを感じさせない風がホームを吹き抜ける。グリーン車が停車する当たりのベンチで茶髪のアホギャルが、醜い腿をさらけだしながら大声でスマホの向こう側にいるであろう馬鹿男に話し掛けていた。そして売店横の喫煙スペースにも黒いロングコートに身を包みくわえ煙草でスマホをいじるOLとおぼしき輩を発見。どいつもこいつも何やってんだ。一人苛立つ私の視野に飛び込んできた一人の女性。
彼女は売店横にある昭和遺産、公衆電話の前に立ち、その美しく、か弱い手で大きな黄緑色の受話器を手に電話の向こうの相手に語りかけている。私は言いようのない感動をおぼえた。携帯・スマホの氾濫するこの世の中にあって、時流に巻き込まれることなくそれを持たず公衆電話を利用するなんて、きっと良家の子女に違いない。無事駅に到着したことを家族にあるいは執事に伝えているのだろう。私の想像は限りなく膨らんでいく。そして、 私は彼女が受話器を置くのを待つことにした。
美しく輝く肩までのびた亜麻色の髪が時折風になびく。静かに受話器を耳もとから離す彼女を確認し、私は大胆にも彼女に接近した。一瞬、戸惑いを見せ瞳を大きく見開く彼女。その済んだ瞳に吸い込まれる前に、私は彼女に思い切って語りかけた。
「スマホこうてやるけ、おっちゃんとマクドいかへんか」
1番線ホームに進入してきた上り電車の騒音が、彼女が私に放った平手打ちの乾いた音をかき消した。

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