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ミルクティーとビスケット [ほっこり]

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今から半世紀近く前、私はロンドンにいました。日本なら桜の便りもきこえだす3月下旬にもかかわらずロンドンは連日厳しい寒さ。下宿先のベッドの中で目覚めると、毛布がめくりあがらないように寝転んだまま手を伸ばして部屋の小さな窓のカーテンを少しあけ外の様子をうかがうのが日課でした。私の下宿先は80歳前後の老夫婦の家。私の部屋は2階にあり、老夫婦は1階で暮らしていました。生活の足しにと私が通っていた学校と契約していたのでしょう。私は自室で寝泊りするだけでしたから老夫婦と言葉を交わすことはそれほど多くはありませんでした。私の部屋には暖炉もどきの装飾はありましたが、中にストーブが設置されているわけでもなく暖房設備は皆無。毛布だけが寒さをしのぐ唯一の防具だったわけです。老婆のおもてなしの表れだったのでしょうか、部屋の小さなテーブルの上には小皿がおかれそこにはきれいな小花がいつも浮いていました。ある朝、異常な寒さに目を覚ますと、その小皿の水が凍っていたこともあります。でも、そんな厳しい朝の寒さを和らげてくれるものがありました。それは毎朝、決まった時間にご主人が部屋に運んでくれた温かいミルクティーとソーサーにのせられた2枚のマリーのビスケットです。「Good morning, ○○!」の声とともに部屋に入ってくるご主人はいつも穏やかな笑顔でした。そしていつも同じベージュのカーディガンを着ていました。ご主人はベッドから抜け出せないでいる私のひざの上に、カップ&ソーサーが載せられたトレイを置き、ひとことふたこと会話をした後に足元に気をつけながら静かに部屋からでていったのです。英国紳士は絶対しないだろうなと思いつつ、私は下品にもビスケットをミルクティーに浸したりしながら寒さも忘れ優雅な朝のひとときを過ごしていたのでした。
今現在毎朝ミルクティートとマリーのビスケットを運んでくれるような方とは同居していません。同じことを奥さんに要求したら鼻で笑われるだけでしょう。今でも赤いパッケージのマリーのビスケットを見るとロンドンの老夫婦を想い出してしまいます。

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