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小さな時計屋さんのおじいさん [ほっこり]

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楽しくないニュースばかりの毎日ですが、ひと昔前の私がほっこりしたお話をひとつお届けします。
社会人になってまもない頃、私は友人の結婚披露宴の司会をつとめました。場所は横浜港に面した由緒あるホテル。そこであまり由緒正しいとはいえない二人の盛大な披露宴は執り行われたのです。その数日後、私のもとにバラの包み紙に覆われた小包が届けられました。差出人は友人のご両親。司会の大任を果たした私へのお礼の品だったのです。開けてみるとセイコーのクオーツ腕時計。私は高校入学時に両親からもらった自動巻きの腕時計を使っていたのですが、その日から私の左手首には皮製ベルトのクオーツ腕時計が飾られるようになりました。
あれから40数年、消耗品である電池やバンドを何十回交換したことでしょうか。すでに時計そのものの価格を大幅に超える額を電池やバンドに投じたことは間違いありません。20世紀終盤、当時の勤め先の近く、新宿駅からもそれほど離れていない、でも人通りのあまりない商店街の小さな時計屋さんで電池を交換してもらったときのことです。応対してくれた店主と思える老人は80歳を過ぎていたと思います。ショーケースに陳列された腕時計の数も少なく店内を飾る掛け時計も少し時代遅れな感じ。「時計屋なんか継がないよ」と息子が家を出て行ってしまった後も、地上げ屋の嫌がらせにも屈せず、店をひとりでずっと守りぬいてきたのでしょう、私の勝手な想像ですが。その店主、早速作業にとりかかってくれたものの、歳のせいで視力の衰えもあってなのか、なかなか裏ブタが開きません。私が「かわりましょうか」といいたいほど細かい作業はきつそうにみえました。ようやく裏ぶたが開き精密な内部が露出されると、店主は目を細めて中をしばらく覗き込んだ後、本当にうれしそうに微笑みながら私に言いました。「いい時計ですねえ。今はセイコーだってこんなの作らないですよ。大事にしてくださいね」。
時計を贈ってくださった友人のご両親も、そして披露宴の主役だったふたりもすでに時の経過とは無縁であろう世界に旅立ってしまいました。でも、いただいてすぐに、会社のタイプライターの角にぶつけてできた小さな傷が表面にあるものの、その時計は今でも私の左手首にまかれ正確に時を知らせ続けてくれています。

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